【ファッション教育活用】手軽な計測で、3D CADを利用したファッション教育を支援
2024.12.26
(久保さん)
文化ファッション大学院 ファッションビジネス研究科 ファッションクリエイション専攻 ファッションテクノロジーコース教授の久保幸子さんは、洋服のパターンメーキングが専門で、デジタル技術を活用したパターンメーキングをテーマとして研究に取り組んでいます。その中で必要なのが、3D CAD上で製作した洋服を着装させる人の体型の3Dデータです。久保さん自身はもちろん、学生のみなさんが気軽に使える体型計測ツールを探していたときに、注目したのがZOZOMETRYでした。
今回は久保さんに、ZOZOMETRYを導入したきっかけや、精度と手軽さが両立されたZOZOMETRYの利点、今後の活用の展望をお聞きしました。
従来よりも手軽なコストで、CLOとの簡単連携が導入の決め手に
(久保さん) |
ーまずは、ZOZOMETRY導入に至ったきっかけについて教えてください。
久保さん:2017年に発表された採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(以下、旧ZOZOSUIT)」は多くの人が注目していたと思います。実際に自分も着用してスキャンしてみたところ、「手軽に計測ができてすごいな」と思いました。そのときから注目していたのですが、2024年4月開催のファッションワールド東京でZOZOが出展していたときにZOZOMETRYの担当者から改めてお話を伺った際、新しく進化したZOZOSUITがどのようなものなのかが分かりました。
また、3Dスキャナーはコストが高く、個人的に導入することはが現実的ではありませんでしたが、ZOZOMETRYはスマートフォンでの利用が可能であり、既存の3Dスキャナーに比べて低価格かつ小さいスペースで利用できることが分かったので、導入を決めました。
また、もう一つ良かった点としては「どこにいても計測ができる」ことでした。また、据置型の3Dスキャナーだと薄着でスキャンするため、見られると恥ずかしいと感じる人もいます。ZOZOMETRYは自宅などのプライベート性を確保したスペースで計測できるので、そのような課題も解決できると感じました。
ーもともと3Dスキャナーを導入したいと考えていたのでしょうか?
久保さん:CLO*を使用していますので、3Dデータには以前から興味をもっていました。もともとパターンをやっていたこともあり、自分でメジャーを用いて採寸をするというよりは、3Dスキャナーで簡単に採寸できないかなどと以前から考えていました。
また、実際に自分もいろいろな機器を利用してスキャンしてみたのですが、自分の体型の3Dデータが顔も含めて写真に近い画像として表現されるのは若干生々しく、見慣れない人もいるため、人によってはちょっとした拒絶反応みたいなものがありそうだと思っていました。一方でZOZOMETRYの場合は、きれいに補正された状態の3Dデータがメッシュとして表示されるので、自分の3Dデータを見て生々しさを感じるような違和感をもつことがあまりなさそうで、良いと思いました。
*「CLO」は、ファッション業界向けの3Dデザインソフト。衣服のシミュレーションやデザインのプロトタイピングをデジタル上でリアルに再現できるツール。
ーZOZOMETRYであれば、はじめて3Dスキャンをやってみる人でも抵抗なく、使っていただきやすそうですね。
久保さん:そうですね。通常の3D計測は一人で行うことは難しく、誰かの手を煩わせることになりますし、専門的な知識も必要になります。しかし、ZOZOMETRYでは時間と場所に拘束されず、他人の手を煩わせることなくいつでも手軽に利用することができると思います。
ー久保さんをはじめ、学生の方にも使っていただいたと聞きました。反応はいかがでしたか?
久保さん:利用した学生は、3Dデータを見て「これは私だ!」と言って、自分の体型が反映された3Dデータを見て感動していました。私の場合は、手採寸をしてからZOZOMETRYでも計測し、両方の結果を比較したのですが、精度の高さに驚きました。
実は、本導入前の無料トライアル期間中にも、学生の中から希望者を募り計測してもらおうと考えたのですが、その時は同じ場所に集まっていたこともあり、いざZOZOSUITを使って計測するという話になると、「やっぱりやめておきます」と気恥ずかしさが勝ってしまいトライするところまで行きませんでした。
ー場所を選ばずにZOZOSUIT無しでも測れるAPP計測があるとそのあたりの問題も解決できそうですね。
久保さん:そうですね。周囲の視線を気にせず、気軽にスキャンできることが重要だと思います。
手採寸の誤差が生まれにくく、安定した精度の高い採寸が可能に
(久保さん) |
ー他社のツール導入を検討されたことはありますか?その中で、ZOZOMETRYを選んだ背景を教えてください。
久保さん:具体的に導入を検討したことはありませんが、さまざまなメーカーの方に話を伺い情報収集はしていました。毎日使うわけではないので、初期費用などをおさえて比較的低コストで使えるようなツールであれば授業などで利用しやすいと考えていたときにZOZOMETRYを見つけたので、使ってみることにしました。他のツールに比べると手軽に使える点が大きかったと思います。特に一般的な3Dスキャナーだと、ソフトや機器の使い方を覚える必要があるので大変かもしれません。その点でもZOZOMETRYの手軽さがありがたいと感じています。
ーZOZOMETRYの計測精度はいかがでしたか?
久保さん:正しくZOZOSUITを着用して計測を行えば、研究用途でも十分な精度が出ていると思います。
ー手採寸では、スキルによって採寸値がブレることもあるのでしょうか。
久保さん:手採寸では、どうしても人によってスキルのばらつきがあったり、安定的に同じ部分を計測することが難しかったりという状況があります。そのため、ブレなく安定的に計測を行うためには人の手よりもツールを利用した方が簡単だと考えています。
ー学生のみなさんも授業などで採寸を習ったりするのですか?
久保さん:大学院なので、すでに基礎を学んでいることが前提という意味で、採寸を教えることは特にありません。しかし、採寸に不慣れな学生もいるとは思います。
また、以前は注文服が多い時代だったので、個人のサイズがわからなければパターンを作れなかったのですが、現在は既製服が主流なので、工業用のボディとそれに伴うパターンが作れる技術があれば、洋服を作ることができます。そういう意味では工業製品を作る限り、人体を採寸する機会自体が少なくなっているということが言えるかもしれません。
手採寸を行う場合、メジャーを使ったり、背伸びしたりしゃがんだり、目線を水平に合わせたりとさまざまな動作を伴うので、ツールでの計測は何より手軽であることが重要です。もちろんZOZOMETRYでもZOZOSUITを着用するという動作がありますが、より手軽で使いやすいZOZOSUIT無しのAPP計測を選ぶこともできます。
体型の3Dデータを活用し、より着心地の良い洋服をつくりたい
(久保さん) |
ー今後どのようにZOZOMETRYを活用していきたいですか?
久保さん:3Dデータをダウンロードできること、採寸した値を簡単に一覧で確認できることが特にメリットだと感じています。例えば、ZOZOMETRYで取得したOBJファイルを院生が取得できるようにして、3D CAD上で洋服を着装させるなど、これまで手軽に出来なかったことを出来るように活用していきたいです。
私はパターンを専門としているため、3Dデータに着装させることで視覚的に洋服の見え方を確認したり、どの程度のゆとりを持たせるべきかなどを確認する手段としても使えそうだと思っています。例えば、さまざまな体型の方が既製品の同じサイズを着用したときに、どの程度のゆとりがあるかを見られると、より良いパターンの研究が進められると考えています。
ーアパレル業界で採寸や計測に関連する課題はありますか?
久保さん:パターンメーキングを含め、昔から技術を培われてきた方々がどんどん引退されていく中で、その技術をデジタルの力を使って代替できればと思っています。現在、テーラー技術をデジタルに置き換える「デジタル・ビスポーク」の研究に取り組んでいます。その中でZOZOMETRYを活用していける領域もあるのではないかと考えています。
ーZOZOMETRYに期待することはなんですか?
久保さん:具体的な機能でいえば、3DデータをCAD上で動かそうとするとひと手間必要になるところを、ダウンロードしてすぐにCAD上で動かせるように、関節などが含まれているなどの処理が施されて欲しいと考えています。
誰でも気軽に計測ができる世界を作り、自分にあった着心地を楽しめるようになればいいなと思っていて、ZOZOMETRYの技術がそういった世界につながっていくのではないかと考えています。また、世界中の人が簡単に自分の体型の3Dデータを取れるようになれば、自分にあった洋服を簡単かつ気軽に選べるような状態が実現できるのではないかと思います。
ー引き続き、ZOZOMETRYをパターンメーキングの領域でご活用いただければと思います。ありがとうございました!