【3Dデータ活用】計測データ取得の効率化で、誰もがオーダーメイドで衣服が作れる技術の実現へ
2024.10.28
鳴海さん
慶應義塾大学理工学部で准教授を務める鳴海紘也さんは、折り紙とデジタル技術を組み合わせたユニークな研究で注目を集めています。今彼が目指しているのは、3Dデータから衣服を「生やす」ように、自分の身体の形状に合う衣服を誰でも簡単に作れる技術です。その技術を世の中に届けるためには、どこでも誰でも手軽に3Dデータを取得できるサービスが必要でした。今回は、鳴海准教授が以前から興味を持っていたというZOZOMETRYの導入に至る経緯や、実現したいファッションの未来についてお話を伺いました。
他社にはない、ユーザーが手軽に同じ環境で計測できることが導入の決め手
鳴海さん
ーまずは導入検討に至るまでのきっかけについて教えてください
鳴海さん:興味を持った最初のきっかけはZOZOSUITでした。2017年に発表された採寸用ボディースーツ「ZOZOSUIT(以下、旧ZOZOSUIT)」は日本中に配布され、多くの人が知っていると思います。私も当時注文し実際に使ってみて、とても良いと感じていました。
また、数年前にZOZO NEXTで兼業していたことがありました。その時から、ZOZOのサービスは実験的なものが多く、面白いことをやっているなと思っていました。
そして、最近「身体から衣服を生やす」アプローチでの衣服製作を研究したくなり、その際に手軽に身体を3Dスキャンする方法が必要になりました。普通の3Dスキャナーだと導入が難しいので、着るだけでスキャンできるZOZOMETRYが便利だと思い、サービス提供が開始されたので導入を決めました。
ーZOZOMETRY以外のサービスを検討したことはありますか?
鳴海さん:他のサービスを本格的に検討したことはなかったです。3Dスキャナーを据え置きで使うと、計測が難しい場合があります。また、手で測ると人によって誤差が生じます。他社には簡単に3Dデータを取得できる方法がなく、ZOZOSUITを使えば、どこでも同じ環境で安定して計測できるため導入したいと考えました。
ー3Dスキャナーの導入を検討する中で感じた難しさは何ですか?
鳴海さん:いろいろなユーザーにスキャンを依頼する点が難しいです。特にハンドスキャナーでは、特徴点を正確に合わせるのにコツが必要だと思います。しかし、ZOZOMETRYならスマートフォンを置くだけでいいので、私がいない場所でもスキャンできます。また、ハンドスキャナーの持ち運びは大変なので、ZOZOSUITを持ち運ぶ方が明らかに手軽です。
私たちはハリウッド映画で使われるような高級な3Dスキャナーは持っておらず、大学でも簡単に入手できないため、最初から考慮していません。手軽に3Dデータを取得するには、ZOZOMETRYが良いと思います。
ー どこでも誰でもスキャンできることが重要だったんですね。
鳴海さん:はい、どこでも誰でもスキャンできれば、集めたデータを使って万人に合う衣服を提供できるようになるかもしれません。
そのためには、データセットを広く集める必要があります。日本人だけでなく、海外の人々のデータも必要です。各自が別々のスキャナーでデータを取ることは、現実的ではありません。使用するツールによってはメッシュの性質が変わる可能性があり、同じ環境でデータを取れることが重要です。自宅にハンドヘルドスキャナーはないでしょうし、ファッションブランドの店に3Dスキャナーを当たり前に置いてくれることもないと思うので、スマホでできる仕組みが最適だと思います。
誰でも簡単にオーダーメイドの衣服が作れる技術を広めるには、誰でも簡単に3Dデータが生成できる仕組みが必要
ー 鳴海さんが研究を通じて実現したいことについて教えてください。
鳴海さん:最終的に目指すのはオーダーメイドの衣服づくりが誰でも簡単に実現できることです。
ーオーダーメイドの衣服づくりを誰でも簡単に実現できるようにするためには、ZOZOMETRYのスキャンが重要だということですね。
鳴海さん:将来的には織り機や編み機など従来主流の作り方に限らず、3Dプリンターなどの新しい作り方でオーダーメイドの衣服を作れるようになるかもしれません。これまでにない作り方を考えた場合、従来のパターンよりも3Dモデルの方が重要なデータになる可能性があります。ファッション企業がすぐに取り組めないようなテーマでも、大学なら取り組めます。
ー 「自分に合う」衣服を誰でも作れるようになる、ということでしょうか。
鳴海さん:「自分に合う」という言葉にはいろいろな意味があると思いますが、すぐに思い浮かぶのは体型に合うということです。最近、雑誌や記事でも自分の骨格を分類する特集がよく見られます。みんな自分に似合うものをとても気にしていて、特に最近はその傾向が強いので、自然なかたちで自分に合う衣服を作ることができたらいいなと思っています。
そのためには、単純な体格(サイズ)だけでなく骨格や姿勢を考慮する必要があります。現状は自分で判断していると思いますが、これでは正しい判定ができているとはあまり思えません。自分はこうだ、こうあるべきだというバイアスがかかっているはずです。本当にその人の体格や体に合った衣服を作るなら、計算して出した方が正確に判定できると思います。
進化したZOZOSUITを活用するZOZOMETRYのデータは、研究はもちろん、オーダーメイド用採寸にも利用ができるほど高精度
ーZOZOMETRYは研究の中でどのように使われていますか?
鳴海さん:ZOZOMETRYにより人体の3Dデータを取得し、そこから服を自動生成しようとしています。現在は与えられたデータから一点物の衣服を生成する方法を検討しているところで、大量のデータの数は必要ありません。しかし、自動で衣服を生成する方法が確立できたら、データ数を増やして異なる体型に衣服生成が適用できるか確認する予定です。将来的に実装が完了して使用可能になったら、多くの人のデータを取得し、オーダーメイド衣服生成サービスとして提供することが可能になるかもしれません
ー3Dデータはどのように扱われていますか?
鳴海さん:私たちはRhinoceros(ライノセラス)というソフトを使用しています。手作業でモデリングするのではなく、体の3Dデータが与えられたときにアルゴリズムを適用して衣服を生成しています。もちろん他のソフトでも同様のことは可能ですが、私たちの業界ではRhinocerosと、それに付随するGrasshoppe(グラスホッパー)というプログラミング環境を使用することが一般的です。
ーZOZOMETRYの3Dデータの精度はいかがでしたか?
鳴海さん:旧ZOZOSUITのことを思い出す人もいるかと思いますが、正直に言って当時からユーザーとして不満はなかったです。進化したZOZOSUITを活用するZOZOMETRYで得たデータはかなり高精度で、その精度の良し悪しは使い方次第だと思いますが、私が思っていたよりもずっと正確です。
そのため、「衣服を生やす」ような研究用途ではなく、オーダーメイド用の採寸などにも非常に使いやすいと思います。会社でこれを実現できるのは羨ましく思います。このような計測技術に投資し続けられる会社があるというのは素晴らしいと思います。
ZOZOSUITなし計測で大量のデータが集められれば、衣服の生成AIが作れるかもしれない
ー今後ZOZOMETRYに求める機能はありますか?
鳴海さん:一般的な3Dスキャナーでもそうですが、脇下や股下のスキャンの精度が難しい傾向があるので、ポーズを変えたスキャンができる方法があるとより良いと思います。また、スキャンの後で3Dデータのポーズ変更ができてもいいかもしれません。スキャン時のポーズの変更は、基本的に精度を向上させることが目的になりますし、スキャン後のポーズ変更は、利用用途に合わせた特定のポーズを取らせることが目的になりそうです。
ー 3Dデータの使い勝手が良くなることが重要そうですね。
鳴海さん:はい、他にも挙げるなら、最初からリギング*が施されているというのは、便利かもしれません。全てのユーザーがソフトウェアを十分に使いこなすのは難しいと思うので、ZOZOMETRY側で事前に処理できたデータを提供できると、より幅広い人に使ってもらえるのではないでしょうか。おそらく、歩行シミュレーションなどが可能になるはずです。
*リギング: 3Dコンピューターグラフィックス(CG)において、キャラクターやオブジェクトをアニメーションで動かすために内部構造(骨格や関節)を設定する技術。これにより、自然でリアルな動きを実現できる。
ー 今後のZOZOMETRYに期待することを教えてください。