東洋大学 陸上競技部

【スポーツ分野活用】“足が速くなる方法”を数値で分析し、選手一人ひとりが自己の限界へ 東洋大学陸上競技部が挑む、フィジカルデータ活用によるパフォーマンス向上の実践例

スポーツ分野活用

2025.06.25

(土江寛裕コーチ)


2024年パリオリンピックに在校生・卒業生あわせて7名が選出されるなど、日本屈指の実力を誇る東洋大学陸上競技部。2017年には桐生祥秀選手が日本人初の9秒台を記録し、現在も10.02秒のベストを持つ栁田大輝選手が次なる日本記録を狙います。

そんなチームで、選手の身体づくりや競技力向上を支えているのが、自身もオリンピック2大会出場経験を持つ土江寛裕コーチ。フィジカルの変化を「感覚」ではなく「データ」でとらえるため、スマホで全身139か所を高精度に測定できる“ZOZOMETRY(ゾゾメトリー)”を導入。選手ごとの成長や課題を見える化し、新たなトレーニング指導に活用しています。

今回はその導入背景、具体的な活用法、得られた成果と、他競技にもつながるフィジカルデータ活用の可能性について伺いました。


スマホで“身体の変化”を簡単・高精度に測定できるZOZOMETRY


─ ZOZOMETRY導入のきっかけを教えてください。

陸上競技は、100分の1秒を争うシビアな競技です。ピッチやストライド、スプリットタイムなどの数値は日常的に記録していますが、“身体そのものの変化”は意外と正確に測れていませんでした。

もちろん体組成計で体重や骨格筋量はチェックしていますが、「お尻が育ったな」「太ももの裏が厚くなった」など、部位単位の変化は経験や感覚に頼る部分が大きかった。そうした“職人技”の領域を、数値で裏付けられないかと考えたのがきっかけです。

それで、「そういえば昔ZOZOSUITってあったな」と思い出して、知り合い経由でZOZOさんに相談したのが始まりでした。

─なぜZOZOMETRYが良かったのですか?

身体を正確に測る方法としてはMRIやCTもありますが、費用や手間がかかるし、CTは被ばくのリスクもある。ハンドメジャーで測る方法もありますが、何十人もの選手を継続的に測るには時間も精度も限界があります。

その点、ZOZOMETRYはスマホで短時間に、しかも高精度に全身を測れる。数ミリ単位の変化まで拾えるのは、指導者として本当にありがたいです。


身体の成長を定点観測  トレーニングやコンディションの道しるべに


─ 実際にどう活用されているのでしょうか?

2024年秋から、約50人の選手を対象に月1回のペースで定期測定を実施しています。怪我をしている選手には週1回測定し、回復経過や筋量の変動をチェックしています。
選手のパフォーマンスやトレーニングデータと組み合わせてZOZOMETRYを活用することで、トレーニングと身体変化の因果関係がより明確になりました。たとえば、冬の強化期には臀部や大腿部のサイズが増え、年始には正月休みで一時的に落ちていたなど、身体の「波」が可視化されています。

データを見ることで、「あ、今、身体が変わってきているな」とリアルに実感できます。また、思っていた以上に変化している選手もいれば、意外と停滞している選手もいます。それを技術や筋力と照らし合わせながら確認していくことで、選手ごとに何が起きているのかを把握でき、そこからの気づきがまた新たな指導につながっています。

さらに、新しいトレーニングによって身体のどこがどう変わったかを確認できる手段としても活用しています。トレーニングの進化に対して、身体がどう反応しているかを“数字”で見られることは、指導者にとって大きな意味があります。
 

ZOZOMETRYで計測をする東洋大学・栁田選手


─ZOZOMETRYは139か所の測定(2025年4月末時点)が可能ですが、特に注目している部位は?

100m走では太ももや臀部が特に重要なので、そこを重点的に見ています。これまでは「膨らんできたな」「ちょっと絞んだかも」といった感覚でしか判断できなかったのですが、実際に測ってみると明らかな変化が確認できました。

ある選手なんて、お尻の周囲が94cmから半年弱で100cmを超えました。出力も上がり、本人の調子も良かった。そうやって「トレーニングが正しい方向に進んでいる」とデータで確認できるのは、すごく大きいです。

選手にとっても、自分の身体の変化を実感できるのはモチベーションになりますし、良い循環が生まれています。

4月から7月にかけて本格的なシーズンに突入しますが、大事な試合に向けて身体を絞る中で「ちょっと絞りすぎているな」「少ししぼんできているな」と感じたら、もう一度身体を作り直すなど、コンディション調整やトレーニングの再設計にも役立つと考えています。

    選手一人ひとりの身体データをもとに成長状況を読み解く土江コーチ

山の登り方は人それぞれ。“足が速くなる”プロセスを可視化して次世代へ


─  今後ZOZOMETRYを目指してどのようなことを実現していきたいですか?

ZOZOMETRYは、選手の成長や進化のプロセスを“可視化する”バロメーター。再現性ある育成の基盤となると考えています。

特に、桐生が9秒台を出したとき、自分の中で「なぜ到達できたのか、明確に説明できない」というもどかしさがありました。本人との試行錯誤で記録を達成したけれど、それを“誰にでも伝えられる形”に残すことができなかったのです。

これからは、客観的な数値で「どういう選手が、どういうプロセスをたどって速くなったのか」を示していきたい。数字があることで、選手にも納得感が生まれ、指導者も論理的に説明できる。そういう育成環境を整えていきたいと考えています。


─ プロセスの可視化によって、再現性のある記録達成が期待できますね。

そうですね。ただし、桐生のような伸び方をすれば全員が速くなるかというと、そう単純でもないのです。選手によって「速くなるプロセス」は異なります。

桐生はピッチが非常に速い選手で、一歩をどう大きくするかがテーマでした。一方、栁田はストライド型。ストライドが大きい分、それにどう回転をつけていくかが課題だった。
こうして選手ごとに異なるプロセスがある。それを富士山にたとえるなら、山梨側から登るか、静岡側から登るか。その違いはあっても、頂上は同じ。その“ルート”を可視化して記録しておくことで、次の世代の選手が自分の登り方を見つけるヒントになると思います。

今ちょうど新入生が入ってきた時期(取材時4月時点)なので、彼らの身体の変化を数値で追っていくことで、また新しい育成モデルが見えてくるのではと期待しています。

 

選手一人ひとりの身体の使い方を説明する土江コーチ

他競技にも応用可能──スポーツ現場で広がる“身体の見える化”

身体の測定は、多くのチームが「本当はやりたい」と思っていても、手間や負担の問題でなかなか実行できていない。そこをZOZOMETRYなら、すごく簡単に、しかも精度高く測れる。

ほとんどのスポーツは“足の速さ”がベースになりますし、ラグビーやサッカー、バスケットボールなど、それぞれのポジションで求められる身体機能についても、「どんな身体が、どう変わって、どんな成果につながったか」を見える化するということは、すべての競技に共通して重要なことです。

ZOZOMETRYは、アスリート育成の新しいスタンダードとして、今後さらに広がっていくと思います。

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